祈りの道をゆく 大峯奥駈道縦走記・序章

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- 大峯奥駈道縦走・序章 2010.04 -




2010年4月初旬の小雨の朝、白谷トンネル横のNTT管理道である階段を駆け上がっていた
しばらくすると小雨は止むが、ガスが視界一面に広がってゆく
なにも、こんな天候に山を歩くことは無いのだが、私には目的があった
それは大峯奥駈道の未知なるエリア、南駈道を少しだけでも知っておくことだ


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大峯奥駈道
 
世界遺産である、千三百年もの間歩き続けられた修験道
七十五の靡、行場を数え、数多の峰を越え、180キロにも及ぶ祈りの道だ
その道を成す縦走路、北部の核心部となる大普賢岳、弥山、八経ヶ岳、明星ヶ岳、釈迦ヶ岳
それらを中心に何度も歩き、縦走し、沢を泳ぎ、道に迷った
そして歩けば歩くほど、この神々が棲む山に魅せられていった
いつかは、この修験道のうち、吉野から熊野本宮までの峰を結ぶ
80数キロの稜線を踏破したい、そのときは、一気に全縦走を果たすのだ
そう想いを募らせ始めたのは、いつの頃からだったろうか
そして、その想いを実現させるときが来たのだ


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花冷えの中、1時間も続く階段を駆け汗と雨露で全身びっしょり
そこにあったのは、ガスで何の展望も無い行仙岳
大峰の神々はまだ私に展望を与えてはくれないようだ
いいか、見えなくても、ここを歩いて来るんだ、吉野から歩いて来るんだ


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展望をあきらめ、縦走用ミネラルウォーターのボトルをデポする場所を探す
そうだ、避難小屋に置かせて頂こう
ピークから少し戻り、行仙岳からどんどん下ったところには、立派な小屋があった
人の気配がするので、大きな声で挨拶しながら入ると
7~8名の方が囲炉裏を囲んで食事中だったが、皆さん笑顔で迎えてくれる


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その方たちこそ、奥駈道の整備をされてる山彦グループの皆さんだった
しかも、代表の玉岡さん、山上さん、櫻本坊支配人の佐藤さん
そんなネットや新聞でよく拝見する中心メンバーの方々だ
皆さんにビール、和歌山のクジラ肉までご馳走になり、会話も弾む
今日の行き先を聞かれたので、奥駈縦走の準備であることを計画を交え話した
 
『そりゃ厳しい行程やけど・・・何回目の縦走ですか?』
『いえ。今回が初めてです』
 


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この答えに玉岡さんはじめ、心配顔の皆さんに、奥駈への想いを話す
厳しくても、全身を懸けて何かに挑戦したい、そう思ってること
来年の春には東京への人事異動がほぼ確定し、この春しかチャンスがないこと
だからこそ独りで、いろんな想いをこめて歩きたい、そう思ってること
そんな私の独白を笑顔で聞かれていた玉岡さんが言った
 
『そうですか。じゃあ、その日、ここで待ってるから私に声をかけなさい。必ず来なさい。』


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畏れを持っていた南奥駈、こんな暖かな言葉をかけてくれる皆さんが整備されてるんだ
そう思うと、何も畏れることは無くなった、あとはこのアップダウンの連続
それに自分の脚が、心が、耐えれるか?それだけじゃないか
自分が気負い過ぎていたことに気付くと、ずっうと楽になり下山する足取りも軽くなった


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その2週間後、釈迦ヶ岳に向かった
折りしも春疾風が奥駈を白くし、桜の散ったあとに咲いた霧氷の華の中を歩きながら
南奥駈の稜線に、いやそのずっと先に待ち受ける熊野に想いを馳せた
それは春霞の遥か遠く、私には見えない道のり
でも、お釈迦さまには見えてるいだろう


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抜けるような青空の下、いつもの笑みのお釈迦さまに祈った
 
最初で最後のチャンスです、奥駈道を歩かせてください
熊野まで私を歩かせてください
見上げたお釈迦さまの笑みは、祈りを叶えてくれそうな
そんな穏やかな笑みだった
 
2010年04月29日夜明け前
吉野金峯山寺から、遥か熊野本宮大社を目指す前に記す





by slow-trek | 2020-05-09 09:00 | My Back Pages | Comments(0)