稜線燃ゆる 黒部五郎岳(後)

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■山行日:2014年10月18(土)-20(月)
■山:黒部五郎岳
■目的:初冬の黒部
■ルート:飛越トンネル(09:00)-避難小屋(13:00)
     避難小屋(06:30)-北ノ俣岳(08:30-09:00)-黒部五郎岳(13:30-14:00)-北ノ俣岳(16:50)
     北ノ俣岳(09:30)-飛越トンネル(13:00)


二日ほど前は雪が降ったはずだけど、意外と暖かな夜だった
昨夜の鍋で、おじやなんて作って、まったりし過ぎて
朝焼けを背に歩き始めたのは6時半

今日も雲一つない秋空





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トレイルは、最初のひと登りは木道で歩きやすく
やがて、水路状態になったおかげか、U字に深く掘られた形状となる
U字の底は歩きにくいので、自然と脇を歩くことに


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南を振り返る
荒ぶる神の山、御嶽の噴煙は、今朝はまだ激しく上がっていない


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北は、徐々に立山方向が目視できるようになり
弥陀ヶ原、大日岳が見え始めると俄然テンションUP

あまりにも澄んだ展望は、脚を進ませてくれない

もう、こうなるとCTなんて関係ない
ゆっくりと歩いて、この大展望をじっくりと独り占めしよう


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立山方面がくっきりと望めるフラットなところから
最後の急こう配が厳しくて、この季節に大汗
やっと登り詰めると、視界いっぱいに薬師岳の雄大な姿
背後に聳えるは剱岳


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すぐにでも走り出したい気持ちを抑え
先ずはザックを降ろし、植生の無いところにドームツェルトを張り
食糧などデポして身軽になる、時間切れの場合はここでビバーグもアリだ
もう、太郎平小屋も黒部五郎小舎も閉まっているのだ


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稜線の西側には2cmほどの雪が残り、日陰では凍っている
やはり日本海側からの冷たい風のせいだろうか

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北ノ俣岳から赤木岳への広がる稜線上で気配を感じて振り返る
後方からソロの男性が追いかけてくる、この二日間で初めて出会う人だ
聞くと、今朝5時から飛越トンネルから歩いて黒部五郎まで
そしてピストンで下るとのこと、それだけの会話を終えるとぐんぐん駈けて行く


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日帰りする人もいれば、自分のように、稜線をふらふらと歩き
ときには、赤木平を見下ろせる岩の上で横になって空を仰ぐ者もいる


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赤木岳の東側の巻き、岩稜の残雪が凍りついてることに気付かず
つるっと、やってしまいハイマツの上に滑り落ちる
その騒ぎに驚いたのか、数十羽のイワヒバリが慌てて飛び立って行く


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中俣乗越辺りを歩いてるとき、ふと思い出したのは2008年のこと
山歩きを初めて2年目、折立から五郎まで一気に歩いて
翌日は鷲羽、水晶を回って雲ノ平、なんて強気なプランだった
ちょうど、この辺りでナニモノカの気配に追いかけられて
バンザイでWストックを叩きながら、大声で駈けたっけ


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あの頃は若かったよなぁ、折立から五郎の肩まで8.5時間だったもの
なぁんて、しみじみ振り返ってると、前方から人の気配、ソロの女性だ
なんと彼女は今朝折立から歩いて、五郎のピストンだと!
いくら折立前夜泊で朝の4時に出たって、ピストン?


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そんな女性、それもソロで歩いてる人がいることが妙に嬉しくて
最後の、五郎の肩までの急登も脚が軽い

途中で、最初の男性とすれ違い、軽く挨拶
「北アルプス、ぜんぶ見渡せますよ」
満面の笑みを残して、さっと下って行く
もう13時前だ、きっと小走りでトンネルまで駈けるのだろう


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九十九折れに残雪が多くなった頃、稜線が近づいて来た
そして肩、あぁ来たぞ、肩まで来た
2008年、小雨とガスの中、この肩でピークをあきらめてカールに降ったのだ
さぁ、ピークを踏もう


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積雪は5cmほどとなり、少し滑りながらピーク


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なんて素晴らしい大展望だ

槍も穂高も望める
足元のカールは、薄っすらと積雪


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2008年は小雨とガスで見えなかった尾根コース
想像よりもアップダウンがあり、なかなか厳しそうな岩稜だ


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360度の展望を30分も独り占め

もう、もう充分だよ、ありがとう黒部五郎


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九十九折れを滑るように降りながら
頭の中は、この秋空の夕景への期待でいっぱいだ


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どんな姿になるのだろう

中俣乗越から赤木岳への登り返し辺りから、急に風が冷たくなる
振り返ると影が伸びている


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あぁ、これからってときなのに
夕陽を目前にして、水晶から赤牛の稜線に薄い雲が流れ始めている

いいさ、これも今日のこのひとときだけの景色だ

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広い尾根から北ノ俣岳への登り返しは、小さなアップダウンの繰り返し
鞍部へ降る度に影が濃くなり、ついに空は燃え始める

そして北ノ俣岳のピークが見え始めた頃
稜線に赤い火が灯った

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その火は広がり初め
足元の岩を、山名板を、北ノ俣を薬師岳を
目に入るもの全てを燃やす炎となった


それはまるで、立ち尽くす全身を
いや心の奥底までをも焼き尽くす神の火だ


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ふと我に返ると、すでに足元は暗い、慌てて飛越新道の分岐まで戻る
もう風は冷たく、表面が薄く凍り付いているツェルトに潜り込み
ダウンの上下にくるまる頃には、辺りは濃いガスに包まれ
それはやがて霧へと、そして深夜には雨に変わった


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翌日、期待していた朝焼けも無く、小雨の降る中の撤収
西面を降り始める頃には霰が落ち、ハイマツには霧氷が付き始めていた


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ぬかるみを泥まみれになって降りきると
トンネル上辺りは、一昨日よりも紅葉が進み
稜線を覆う暗い雪雲とのコントラスト、その錦絵は恐ろしいほど美しく
早い冬の訪れに全身を震わせながら、今シーズンの北アルプスは終わった


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あの稜線を燃やした炎は、今も胸の奥に


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Commented by pallet-sorairo at 2014-11-07 09:49
小屋閉めあとの黒部五郎、楽しませていただきました。
毎年候補に挙がりながら、取り残した感じで行ってない黒部五郎。
来年(私の場合はもちろん夏ね)こそは一番先に行こうねと山友と話しています。
で、数十羽のイワヒバリってすごいですね。
寒いのでおしくらまんじゅうでもしてたのかしら(^^ゞ
Commented by Cyu2 at 2014-11-07 22:37 x
いやぁ、どのシーンもとびきり素敵だけど、
燃えた瞬間の赤、拝見していて鳥肌たちましたよ。
雨で泣かされた2014年でしたけど、良い締めくくりでしたね。
じーん…
やっぱりかっけーのは黒部五郎さんじゃなくてスロさんです(*^^*)!
Commented by ゆな at 2014-11-08 04:02 x
すごいです!じんわーーり来ました!
スロトレさんの文章はほんといいですねー♪最高(^^)

リベンジできてよかったですね(*´∀`)
山頂からのカールの眺めが好きすぎます!
はしっこに赤い屋根の黒部五郎小屋が見えて……

夕焼けの写真やぶぁいですねー!!!
燃えてる!!!
こんなとこ、まったりひとりで…贅沢ー!!!
ティングルマの写真がかわいいです(*´ω`*)

ゴロン→北ノ俣までの道はいつも死にそうになります…(´・ω・`)
こんなんでGW大丈夫でしょうかw
お会いできたらすっごく嬉しいです(*´∀`)
薬師も行きたいんですよねー(^^)
Commented by bphiro at 2014-11-08 08:52
f^_^;)
ゆったり、まったりと贅沢な時間を過ごせたようですね!
我々は、なかなか3連休は無理なので1泊の山行スケジュール中心になるので
どうしても、急ぎ足計画になってしまうんですよね…………

もうすぐ、綺麗な真っ白な絨毯敷き詰められますね〜(*^_^*)
Commented by ルネオバ at 2014-11-08 18:32 x
セキリョーカンだとか、稜線が燃えるだとか
そんなことばかり言うて、そんな人のおれへんとこばっかりウロウロしてたら
そのうち、熊に食べられてしまうでぇ

すみません。
お嫁ちゃまになり代わり言わせていただきました(^^ゞ
それにしても、カッケーですねーー!ゴロンちゃんもスロトレさんも~
いつもながら読ませるレポ。
底知れぬ寂寥感漂う稜線にぐいぐい引きずり込まれてしまいましたよん

あ、チングルマの上にあんな風に雪が降り積もるのね~・・
Commented by slow-trek at 2014-11-09 22:51
palletさん
黒部五郎、未踏なのですね
来シーズン、一番にですか、いいですね
出来たら折立から入って、北ノ俣を越える
いわゆる西銀座ダイモンドルートをお勧めします
この赤く燃えた稜線は、素晴らしいお花畑なのです^^
Commented by slow-trek at 2014-11-09 22:52
cyu2さん
この赤く燃えてるシーンですが
北ノ俣の辺り、元々岩肌とか、砂地そのもが赤いので
(って、ご存知ですよね^^;)夕陽に染まると
こんな色になるのですね
でも、こんな色に染まる時間に、この稜線に立つこと
なんてないから、はい、私も鳥肌ものでした^^
Commented by slow-trek at 2014-11-09 22:53
ゆなさん
ほんとはねー、五郎の冬季解放小屋で一泊
なんて考えてたのですが、やっぱり遠いですね^^;
GWの頃ね、私も五郎を狙ってたのですが
今回想いました、太郎に泊まって薬師もいいかな、と
もう、頭の中は、真っ白な薬師です^^
Commented by slow-trek at 2014-11-09 22:54
hiroさん
はいはい、とてもゆっくりと過ごしました
こんな贅沢な山行、したかったので大満足です
冬、雪山シーズン、楽しみですね^^
Commented by slow-trek at 2014-11-09 22:55
ルネさん
熊!?そうそう、下山後、トンネル駐車場のすぐそばで
小熊見ましたよ、しばらく車で並走してね!
って、この話し数日前にしたばかりでしたっけ^^;
晩秋の黒部、胸にギュッと迫りました
カッケー、とか持ち上げられても何も出ませんよー
年末年始、大峰つきあってくださいね^^
by slow-trek | 2014-11-06 22:40 | 北アルプス | Comments(10)