空が青いから白をえらんだのです

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登山口までのロングドライブ
車中ではミュージックライブラリばかりじゃなくてラジオを聴く
特にNHK 「ラジオ深夜便」 は、深夜に移動する時の定番だ

内容はシニア世代向けの様々な情報、懐かしき音楽、対談が
深夜に相応しい静かな口調で語りかけられる、オトナのプログラムだ
もちろん、自分よりは上の世代向けではあるが、お気に入りである

あれは今年の、ある春の夜、いつものようにラジオを聴いていると
対談コーナー「明日へのことば」 で
「心をほぐす詩の授業 奈良少年刑務所での取組み」 と題して紹介された
言葉を通じた活動と、想像を超える成果を伝える内容に強く感銘を受けたのだ





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その内容は、詩人である寮美千子さんが、奈良県に移住したことがきっかけで
奈良少年刑務所の、社会性涵養プログラム「物語の教室」を受け持つ事から始まる

強盗、レイプ、殺人、、、十代で重罪を犯した少年たち
その中でも、特に仲間と歩調を合わせることが出来ない
極端に内気で自己表現が出来ない者たちへ、童話と詩を通じて
感情、愛情、理解、その気持ちを表すことを学ぶプログラムだ

詩の授業では、好きな詩を書いて、それを朗読してお互いが批評する
そんなことが、この少年たちに出来るのだろうか?
不安と共に始まった授業、普段表情が無く、一言も発することも無い
薬物中毒の後遺症で、言葉不明瞭なA君が、苦労しながら朗読し始めた

「くも」

 空が青いから白をえらんだのです

講師である寮さんは、その意味が理解出来ない一行に
何をどう評すれば良いか分からず、困惑していたところへA君は続ける


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  せんせい、今年でおかあさんの七回忌です。おかあさんは病院で
  「つらいことがあったら空を見て。そこに私がいるから」
  とぼくに言ってくれました。それが最後の言葉でした。
  お父さんは体のよわいおかあさんをいつも殴っていました
  ぼく、小さかったら何も出来なくて・・・。

その一行の背景の深さと、こんなにも美しい言葉で表現した少年の感性に
寮さんは胸が詰まってしまう
そこへ教室の仲間たちが次々と手を挙げる


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  「この詩をかいたことがAくんの親孝行やと思いました」
  「Aくんのお母さんは真っ白でふわふわなんやと思いました」

教えたわけでも無く仲間たちは、思いやりのある言葉でしか評さない
ある少年は

  「ぼくはお母さんを知りません。でもA君の詩を読んで
   空を見たら、ぼくもお母さんに会えるような気がしました」

そう感想を述べた後、そのまま、おいおいと泣き始める
そんな仲間たちの反応に、自分の言葉が相手に伝わり
心を揺さぶったことを理解したA君は、今までと表情が大きく変わり
花が咲いたような笑顔になる

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対談の冒頭、このエピソードと一遍の詩で、涙腺は崩壊
高速道路のパーキングエリアで涙を拭かなければならなかった

その対談で紹介された詩は、詩集となって出版されていると知り
この秋、やっと手に入れて読む事が出来た

何篇もの詩からは、いくつもの悲しみと、苦しみに彩られた
孤独なこどもたちの姿が浮かび上がる

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母に捨てられる、父から毎日暴力を受ける、学校に行ったことが無い

そんなネグレクトを受け続け、心を育む場所も無いまま
大きくなったこどもたちは、やがて罪を犯し、檻に入れらる
 
皮肉にも、そこでやっと心を育む場を与えられ
感情を覚え、理解し合うことを知り、罪を悔やみ
そして
それでも捨てられた母を想い、言葉にして行くことで
こどもから少年へと成長して行く

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この「物語の教室」の卒業生は、少年院の中でもリーダーの役割を与えられる
そうすることで前向きなムード、改心する姿勢が、院のなかで広がるそうだ

それほどまで、言葉でお互いを認め合うこと、理解し合うことが
ヒトを変えて行くことに感動を覚えて止まない
 
匿名を楯に書き込まれる罵詈雑言、ヘイト、ウソ・デマ
ネットでは、そんなゴミのようなテキストで溢れ帰り
本来の言葉の意味
日本語の美しい言葉の価値が貶められている

そんな現状を憂う毎日だからこそ 
このピュアな詩と、詩がヒトを変えて行くプロセスに
言葉のちからを知り、清々しく想ったのが読後の感想だ

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  「雨と青空」

  ざんざんぶりの雨の中
  水玉のカサをさして
  花柄のスカートが少し濡れて
  かわいくって 恋におちました
  
  窓から見える 青い空
  ぼくの好きな人も 見てるかな


檻の中で決して会えない誰かを想う透明な悲しみの言葉
いつの日か、いつの日か
この少年が、初恋の少女に再会できることを願う


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Commented by yuki8055 at 2017-10-12 06:53 x
私たちも登山口を目指して深夜ひた走っているとき、『ラジオ深夜便』が流れているのを見つけることがあって、不思議と聞き入ってしまいます。この本、ぜひ読んでみます。紹介してくださってありがとうございます。
Commented by ケーコ at 2017-10-12 19:13 x
こういうまっすぐな言葉ってガツンときます。かわいくって 恋におちました の「くって」の可愛いこと。まだ少年なんですよね。言葉と建築物が相まって美しくもあり苦しくもあり、いい取り組みが形になったんだなぁ。

最後まで真剣に読みました。でも、ごめん、やっぱりダメだわ。高速道路のPAで泣いてるスロさんはいただけないわ。想像しただけで笑いが‥‥

↑に同じく、読んでみます。
Commented by cyu2 at 2017-10-13 22:28 x
これらの画像はどちらから?
少年たちの言葉と共にココロにグサッと刺さりました。

ありがたいな、今日も平凡な一日を終えられて。
スロさん、素敵なお話ありがとう。

Commented by pallet-sorairo at 2017-10-13 22:59
私も画像はどこから?と思っていました。
たぶん、想像を超えた成育歴を持っているのだろう子どもたち。
その心を開いてゆく講師の寮さんにも心惹かれます。
ご紹介ありがとう、私も読んでみます。

ついでにといっては何ですが、
刑務所つながりということで私が最近読んだ本も紹介しておきますね。
『プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』(紀伊国屋書店刊/2016)
こちらは、アメリカの刑務所内で一年間読書会運営にかかわったジャーナリストが書いたノンフィクション。
物語の持つちからを感じることができる本でした。
Commented by slow-trek at 2017-10-13 23:54
yuki8055さん
そうなんですよねー、あの落ち着いた口調と間が
深夜の時間帯に不思議と溶け込んで、ついつい
惹きこまれてしまうラジオ番組ですよね
機会があれば詩集も読んでみてください
Commented by slow-trek at 2017-10-13 23:56
ケーコさん
そうそう、この「かわいくって」が可愛いの!
少年って言うか、ほんと子供なんですよね

>高速道路のPAで泣いてるスロさんはいただけないわ。
>想像しただけで笑いが‥‥

涙腺、めっきり弱くなっちゃって^^;
Commented by slow-trek at 2017-10-13 23:59
cyu2さん
実はこの少年院は今年の3月に閉鎖されたのです
その時の記念的な画像がニュースサイト等に
たくさんあったのでお借りしています。
平凡な毎日が一番ですよね!
Commented by slow-trek at 2017-10-14 00:09
palletさん
画像に映る少年院は美しいでしょ?
この建造物は明治の煉瓦建築で、最も美しい刑務所
としても有名だそうです、その美しさが返って
少年たちの悲しみ、苦しみ、孤独をより際立たせている
ように思えてなりません
プリズン・ブック・クラブですか、これも言葉のちからを
感じさせそうなお話ですね、さっそく図書館に行きますね^^
Commented by non-t at 2017-10-17 11:50 x
スロトレさん、お久ぶりです
Non-tです

電車の中で詩集を読んでしまって
涙顔を隠すのが大変でした

どこか、自分の心の奥底に
無理やりねじ伏せていたものに
触れてしまった気がします

お盆は久しぶりに白馬方面に
行きましたが、どしゃぶりで・・・

いつもすてきなところを
ご紹介いただき
ありがとうございます

山はいつまでも続けたいですね^^
Commented by slow-trek at 2017-10-18 00:19
nonさん

こちらこそ、ごぶさたしています
詩集読まれたのですね
誰しも自分の中に、何がしらかのキズはありますよね・・・
 
白馬はどしゃぶりでしたかー、それは残念です
でも、今も山を歩かれてるのは嬉しいです
お互い、いつまでも山を続けましょう^^
by slow-trek | 2017-10-11 22:44 | 断想 | Comments(10)