静かなる山旅 秋の徳本峠 (後)

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霞沢岳
その山は常念山脈の最南端に位置し
北アルプスで最も人気のある穂高連峰と比べ登山者は少ない
そんな二百名山である霞沢岳、上高地から見上げる度に
きっと歩くことはないだろうな、と思っていた
しかし昨年の秋までに、このエリアの主峰は全て歩き
そして今回、歴史あるクラッシックルート、徳本峠を越えて来た

このタイミングだ、この霞沢岳は今日歩くためにとっておいたようなものだ
さぁ静かなトレイル、静かな秋を楽しもう



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例によって予定よりも遅れて出発する
今日のトレイル、一番の目的は朝焼けに燃える穂高を望むこと
それには、日の出までK1まで辿り着くのが理想だろう
でも私は、夜明けとともに歩くことにした
ピークまでのどこかで燃える穂高には逢えることを期待して

まだ薄暗いテン場から、明るくなり始める空を背に歩き始める
背の高い針葉樹林がゆっくりと赤く染まる

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意外と速い日の出時間に少しずつ焦りながら早足になる
どこだ、どこで朝焼けの穂高に逢えるのだ?
もしかして間に合わないのか?

やっと体が暖まったばかり、なのにわしわしと登って行く
南方向の視界が広がり、もう日の出だと分かったとき
目の前を、ゆっくりゆっくり歩く高齢のご夫婦
あぁ抜きたい、でも抜かせてくれない
一声かけようか

そう思ったとき、自分の真上の樹が燃え始めた

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その美しいシーンを見てて、ちょっとイラついてた自分に呆れた
静かなトレイル、静かな秋を楽しみに来たんだ
ゆっくりでいいじゃないか
穂高は逃げないさ

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大きなカメラを持ち、ゆっくり歩くご夫婦の後ろ
これまた、スローに付いて行くうちに、唐松林の向こう
少しずつ姿を見せ始めた穂高

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間に合わなかった・・・か
ま、いいか
と、しばらくトボトボ歩いていると

「ほぅ・・・。」

ご主人が立ち止まった、その視線の先には視界が広がり・・・

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「ゆっくり歩いても拝めるって、お父さんが言った通りね」

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奥さまは紅く染まる穂高に手を合わせる
私もなぜか一緒に並んで手を合わせる
そうやって三人は、しばし穂高の神々しい姿に見とれる

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ご夫妻と別れ先を行く
紅葉と針葉樹林と、青空と赤い雲
見上げるたびに色の変わる景色を楽しんでるうちに
ひとつ目のピーク、2428ジャンクションピークだ

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ピークからは南方が望め、八つヶ岳、富士山が見えてもいいはずだが
朝もやで薄っすらとしか視界が広がらない
行こう
ジャンクションピークからトレイルは北西へと鋭角に進む
針葉樹林はどんどん背が高くなり
紅葉も色がくっきりとなって行く

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P1、P2と赤字で樹に書かれたピークを過ぎて行く
そしてP4、ここからは300Mも下るのだ
復路のことを思うと気が重いな

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下りきった鞍部辺りから、南方向は崩れ落ち切り立った危険な状態
ここだけは要注意だろう、そう思いながらも
やっと姿を見せ始めた霞沢岳の裾野、その紅葉の色に目を奪われる

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トレイルは北側に下ると、K1に向かっての登り返し
この急登がキツい、冷たい風を受け、体は冷えているはずなのに汗が途切れない
それでも振り返るたびに六百山の紅葉、足元に流れる梓川の輝きが美しい

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最後の岩場を乗り越えると、やっとK1だ
あぁ、この展望

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もう、もうここでいいじゃないか
本峰どころか、手前のK2だって同じ展望だろう
もういいよ、こんなにキツいとは思わなかったよ
地図で見るよりも、このアップダウンは堪えるよ
急速に冷え込んで行く体をウィンドストッパーで包み、ピークに転がる

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10分も休憩しただろうか、ジャンクションピークで抜いた6名グループが追い付き
ピークは人がいっぱいで狭くなる
さぁ、、、戻るか?なんて在り得ないよな、グループに場所を譲ると南方向へ下り始めた

鞍部に下りきると登り返してK2
そして本峰へ

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K1との違いは、乗鞍と御嶽が近づいただけ
それでも、いつも上高地から見上げてたピークに立つ、その達成感を覚える
穂高エリアにはまだまだ来るだろうけど
このピークに立つことは、きっともうないだろう
そう想うと、うん。ここに立ってよかった

さぁ帰ろうか

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アップダウンを繰り返して東へと戻る
トレイルの針葉樹林はいろんな色を楽しませてくれる

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そして
午後一番の陽射しを浴びてますます輝く穂高

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テン場に戻ると、さてランチはどうしよう?   
そうだ、あの食堂で頂こう

と、ちょっと空腹を我慢して撤収作業

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下山し始めると何故だか名残惜しい
この峠、なんだかとても心地良いのだ
島々までのバスの時間も余裕がある、ゆっくり下ろうか

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穂高明神がゆっくり近づいて来る感覚を楽しみながら
手入れの行き届いたトレイルを歩く

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水場のカーブでグレゴリーのザックの外国人女性に話しかけられる
正面の山の名前を知りたいようだ、Mt.MYOJIN と言うと
素敵な笑顔でノートとペンを差出し、ジェスチャーで書いてくれと
そのノートには明神岳南峰のスケッチがあった

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いいカンジの絵だったのでカメラで写して良いか?と聞くと
笑顔で首を振る、その照れた表情がなんとも自然で美しくて・・・

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なんとなく一緒に歩いてると、ぽつぽつと単語だけの会話が続く
日本の秋はどう? fantastick と笑う
グレゴリーのザックが似合っていると言うと、私のオスプレィも素敵だと笑う
そんな単語だけのやりとりで、彼女は明日、岳沢まで歩くと分かった

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岳沢?ガォーっと熊が出るジェスチャーをしてみせると彼女は大笑い
そしてポケットから不思議な形の鈴を出してくれる
カラカラン♪転がるような可愛い音が響く
梓川に出会うまで、紅葉の森の中、いくつかの英単語とカラカラン♪だけ

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梓川越しに明神岳を正面に望むところ、団体さんの列に紛れいつの間にか彼女は消えた
そんな風に静かな山旅も終わった

不思議と林道の人も少なく、いつもより静か、最後まで静かな静かな山旅
それでも明神館まで近づくと喧噪が聞こえてくる

カラカラン♪

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喧噪の中に一人
明神館前のベンチに座ってると鈴の音が聞こえた気がした
振り返るけれど、落ち葉の上には誰もいなかった


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Commented by nikkor14d at 2012-11-12 01:58 x
焼鳥に海老天うどん、そしてTORYS、、、プライスレス:-)
Commented by げんさん at 2012-11-12 04:52 x
秋の徳本峠。

静かなテン場にウイスキー、透明感のある秋の穂高の風景、
最後の写真がまたいいですねー

心に残るすてきな山旅でしたね。

また朝からグッときちゃいましたよ(笑)
Commented by のん at 2012-11-12 12:37 x
枯葉のじゅうたんを背景にしたエンディングの余韻に
ほろりとしてしまった。

私も鈴の音がかすかに聞こえる気がしたなあ。
鈴の持ち主は本当は誰?枯葉の精霊?


憧れのクラシック・ルート、秋に訪れたいな。
Commented by katsu♨ at 2012-11-12 12:50 x
「徳本峠」は色んな山岳小説に度々登場しますよねぇ。
だから僕も興味はあったのですが
スロさん同様に「ジジイになってからでいいかぁ」と考えていました。

祝日の穂高方面で静かな山旅なんて考えられないから、
ジジイになる前でもこのルートはアリですね(笑

来年か再来年・・・忘れてなきゃ登ろうかと・・・
まあ、K-1までで十分ですけどね(笑
Commented by コト at 2012-11-16 20:56 x
きれいできれいすぎて、美しくて、美しすぎて~~~
泣けてくるじゃないですか~~
Commented by slow-trek at 2012-11-16 22:43
nikkor14d さん

あ、トリスに目が行きました?
さてはnikkor14d さん、イケるクチですなw
Commented by slow-trek at 2012-11-16 22:44
げんさん

コメントありがとうございます

>また朝からグッときちゃいましたよ(笑)

そんなぁ、私なんて毎日、げんさんのブログでお腹グーグーっす(笑
Commented by slow-trek at 2012-11-16 22:47
のんさま

>私も鈴の音がかすかに聞こえる気がしたなあ。

あ、嬉しいなぁ、そう感じて頂けたらブロガーとしては最高♪
いやぁ、ここはぜひとも!のんさん家には最適かも
新島々駅をベースに木電車+バスで上高地まわれますから
ご夫婦で、まったり秋を楽しんでくださいね
Commented by slow-trek at 2012-11-16 22:49
katsu♨ さん

ここは、逆に、じじぃになる前に行きましょうw
あ、K1でOKです、はい
ただね、そんなこと言いながらK1に立つでしょ?
ぜーったい本峰踏みたくなりますから、はい(きっぱりっ)w
Commented by slow-trek at 2012-11-16 22:50
コトさん

>泣けてくるじゃないですか~~

泣いてください、泣いて(笑
コトさんちには、正月開けから泣かされてますので、ね♪
ありがとう
Commented by ゆな at 2013-02-24 14:57 x
あちこちにコメントしてすいません。
徳本峠越え、良いですね。
霞沢岳はずっと行きたかった山なんですが、やはり厳しいんですね。
上高地からのピストンを考えていましたが、徳本峠越えも良いかも。

終わり方が素敵で、ホロリと来ました。
文才ありますね( ´ ▽ ` )ノ
Commented by slow-trek at 2013-02-25 23:26
ゆなさん

>霞沢岳はずっと行きたかった山なんですが、やはり厳しいんですね。

いえいえ、オーバーに言ってるだけです
最初から地図読んで、アップダウンをイメージして行けば
全然楽勝です、って、全然自分の記事と違うこと言ってるし^^;

>上高地からのピストンを考えていましたが、徳本峠越えも良いかも。

はい、ぜひとも小屋泊で峠を越えてください
あ、秋にね

>終わり方が素敵で、ホロリと来ました。

ありがとう
by slow-trek | 2012-11-11 22:15 | 北アルプス | Comments(12)